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第一話 海路、リムサ・ロミンサへ

森を離れたサラが、海路の先にリムサ・ロミンサを初めて見るまでの記録。

公開
更新
  • サラ・ヴェイル
  • 新生エオルゼア
  • リムサ・ロミンサ

光があった。

どこから差しているのか分からない。空も地面もない暗闇の中で、青白い光だけが脈打っていた。

声がした。

聞いて。

感じて。

考えて。

何を、と問い返そうとした。

声は答えなかった。光が膨らみ、視界を覆い尽くした。

彼女は息を呑んで目を覚ました。

低い天井。薄暗い船室。鼻を刺す潮と木材の匂い。壁の向こうで波が砕け、床板がゆっくりと傾いている。

長い耳が、帆綱の軛みと甲板を走る足音を拾った。夢の声はもう聞こえない。

代わりに、すぐそばから男の声がした。

向かいに座っていた行商人が、心配そうに顔を覗き込んでいた。ひどくうなされ、汗までかいていたという。

彼女は額へ手を当てた。熱はない。船酔いとも違う。夢の内容は、目を覚ました端から形を失い始めていた。残っているのは三つの言葉と、目の奥に焼きついた光だけだった。

行商人はブレナンと名乗った。ヴィルブランドにはエーテライトが多いから、その影響かもしれないと、分かったような、分からないような説明をした。

彼女は返事をしなかった。

ブレナンは気を悪くした様子もなく、風に当たろうと甲板へ向かった。彼女も少し遅れて席を立った。もうすぐ着くというなら、船室に残る理由はなかった。

甲板へ出た途端、湿った風が顔へまとわりついた。

海はどこまでも続いていた。木々も、丘も、道もない。揺れる青い面の上に、自分たちの船だけが取り残されている。

ブレナンは、彼女の見慣れない装いを眺め、駆け出しの冒険者だろうと見当をつけた。力を求めているのか、名を上げたいのか、それとも富が目当てなのか。陽気に並べたあと、なぜ冒険者になったのかと尋ねた。

彼女は海から目を逸らさなかった。

問いは聞こえていた。

ブレナンはしばらく待ったが、それ以上は尋ねなかった。誰にでも秘密の一つや二つはある。そんなことを言って、ひとりで話を続けた。

やがて、船員の声が甲板を走った。

右舷に船影。海賊旗。

乗客たちは逃げるより先に、示された方角を見た。彼女も視線を向けた。波間を進む船の帆に、見慣れない印が翻っている。

沈められるだろうか。

陸はまだ見えない。船が沈めば、泳ぐことになる。

そこで彼女は、初めて気がついた。

——そういえば、海では泳いだことがない。

船員が、甲板にいる者たちへ船室へ戻れと怒鳴った。

もっともだ、と彼女は思った。

狭い階段を下りる間にも、甲板の上では号令と足音が飛び交っていた。船が大きく傾き、船腹の向こうで遠い雷のような音がした。彼女は壁へ手をつき、揺れに耐えた。

森の川なら、流れを見れば渡れる場所が分かった。岸までの距離も、水の下にある石の位置も読めた。

だが海には、目印になるものが何もない。

しばらくして、船員が海賊船の射程を脱したと告げた。船は速度を落とさず、風を受けて進んでいる。

逃げ切れそうだった。

それなら、もう考えることはなかった。

海賊船が追跡を諦めたなら、港も近いはずだ。ブレナンに誘われ、彼女は再び甲板へ上がった。

初めに見えた街は、まだ音を持っていなかった。

青い海の向こうで、白い建物が岩礁にへばりついていた。高い塔と大小の船。その間を、細い橋が幾重にも渡っている。

ブレナンは、あれがリムサ・ロミンサだと教えた。自由と富を求める者が集まる、海洋都市国家なのだという。

彼女は黙って眺めた。

船が港へ近づくにつれ、街は音を持ち始めた。

荷を運ぶ者の大声。木箱を置く音。鎖が石を引っかく音。遠くで金属を打つ、硬い音。無数の足音と、意味を結ばない人々の声。

長い耳が、落ち着かなげに向きを変えた。

森では、音には距離と方向があった。枝を踏んだのが獣か人か、水がどちらへ流れているか、目を閉じても分かった。

だがこの街では、石壁と海面が音を跳ね返している。近く聞こえるものが遠く、遠く聞こえるものがどこにあるのか分からない。

潮と魚と油の匂いがした。土も、苔も、草木の匂いもしなかった。

ごちゃごちゃした街だ。

岩にへばりつく白い建物と、その間を行き交う人々を眺めながら、彼女は思った。

巨大な蟻塚のようだ。

もちろん、口には出さなかった。

ブレナンはまだ、街の来歴を誇らしげに語っていた。

彼女にとって、そこは新天地ではなかった。

船が着く場所だった。

ただ、それだけだった。

巻末おまけ

船から港へ降りるサラに、街の人々が目を向ける 街を歩くサラが、周囲の視線に気づく 街路で立ち止まり、視線を集める理由を考えるサラ
自分の服装に気づき、少し照れながら指を差すサラ
まず服を買え。